大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和58年(ネ)64号 判決

控訴人 京浜運送株式会社

右代表者代表取締役 吉本仙次郎

〈ほか一名〉

控訴人ら訴訟代理人弁護士 立石邦男

同 小林元治

同 渡邉栄子

被控訴人 木之内栄

右訴訟代理人弁護士 菅谷英夫

主文

本件各控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実

控訴代理人は「原判決中被控訴人に関する部分のうち控訴人ら敗訴部分を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は主文第一項同旨の判決を求めた。

当事者双方の主張は、次に付加するほかは、原判決事実摘示のとおりであり、証拠関係は、記録中の証拠目録記載のとおりであるから、これらを引用する。

(控訴人ら)

被控訴人の運送業は無免許で違法な営業行為であり、これにつき法律上の保護を受けるべき利益は存しない。本件事故によりその営業行為の続行が困難になったとしても、被害車の修理期間中、積極的に無免許で運送業を継続するため第三者から代車を賃借した費用まで事故と相当因果関係のある損害とはいえない。法の保護は適法な行為を行う者のみが享受するとのクリーンハンドの原則からしても本訴請求は是認されるべきではない。もしこれを是認するならば裁判所による違法行為の追認・助長という結果となり極めて不合理である。

理由

当裁判所も被控訴人の控訴人らに対する請求は、原審の認容した範囲で理由があり、その余は理由がないものと判断する。その理由は、次に付加するほか、原判決中被控訴人の請求に関する理由説示と同一であるからこれを引用する。

道路運送法四条一項は、「一般自動車運送事業を経営しようとする者は、運輸大臣の免許を受けなければならない。」旨規定しているが、右規定は、道路運送事業の適正な運営及び公正な競争を確保するとともに、道路運送に関する秩序を確立(同法一条)しようとする趣旨から定められたものである。右規定の趣旨に照らせば、無免許で運送事業を経営した者は、右取締法規に触れ、刑事上制裁を受けることがあっても、事業経営の過程における私法上の行為が公序良俗違反等として当然に無効となるものではないと解すべきであるから、事業経営上の利益を違法な行為により侵害された場合には、右利益は保護されるべきものとして加害者に対し損害を賠償しうべく、これをもってクリーンハンドの原則に反するとか、これを是認することが違法行為を追認ないし助長するものということはできない。したがって、事故による被害車の修理期間中代車を賃借して右事業を経営した場合には、右代車の賃借料は、不法行為による損害として加害者に対し、その賠償を請求することができると解される。

よって、原判決中被控訴人の請求を認容した部分は相当であるから、本件各控訴を棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九五条、八九条、九三条に従い、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 倉田卓次 裁判官 下郡山信夫 加茂紀久男)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例